Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.023 北山美優さん

2016/01/15 (金)
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北山美優さん

株式会社二期リゾート
取締役副社長

1986年、栃木県の那須塩原に6室からスタートしたリゾートホテル「二期倶楽部」。 創業29年を経て、現在では豊かな森に小川が流れる42,000坪の広大な敷地に、41室を擁する贅沢なブティックリゾートとして、日本中に数多くのファンを持っています。 日本のホテルで初めて、オーストラリア『International Traveller』誌の「Best 100 Hotels」に選出される一方、文化・芸術活動にも積極的に取り組まれるなど、その独自な存在価値は国内外で高く評価されています。
今回は、ご自身が現在の仕事を手がけられるようになった経緯や大切にされている想い、いま進められているプロジェクトなどについてお話しいただきました。

ホテルは心身を浄化してくれる「学びの場所」、その原体験

高校生の頃には、自立した女性として、生涯ずっと追求できること、手に職を付けて仕事をしたい、という想いが強くありました。人に関わること、「生きる」意味を人と人との関係性の中で考えていきたいと思って、医者になりたいと真剣に考えたこともありました。結局、大学は教育学部にいきましたが、自分には向いていたと思っています。 子ども達に関わる経験を重ねるなかで、人が学ぶことの本質、生命から社会の成り立ちや文化までその“功罪”を含めて、いろいろと考えるようになりました。将来進むべき道についてはずいぶん悩んで当時は苦しかったですが、それが今に役立っている、そんな手応えはあります。

教育について考える中、あるスクールに出会った体験が忘れられません。そこでは下は中学生、上は60代の方が同じ場で、一緒に学びます。年齢もバックグラウンドも異なる人たちが、創造的にかかわり合い、学びあう場に出会って驚きました。同じ年頃の人間が、足並み揃えて同じことを同じようにしか学ばない既存の「教育」のあり方に、大きな疑問を持っていたので、こんな多様な学び方、学びの場をつくりあげることができる、ということに新鮮なショックを受けたのです。

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宮城教育大学の林竹二先生は「学問とはカタルシスである。吟味がその方法だ」と言われています。私はこのスクールの体験を通じて「多様な学びの空間」が、カタルシス、人間の精神の「浄化」に大切だと学んだように思います。それと同時に、スクールに参加する人達の生き生きした様子に触れて「一人ひとりの異なる力が重なると、ものすごいパワーが生まれる!」と実感しました。世間を知らなかった頃の経験ですが、いま携わっているホテルの仕事でも大切にしている「多様性」「心身の浄化」「学びの場」「生命の躍動」など、生命の原点につながる、深い意味に気づかせてくれる貴重な体験でした。

自分自身の「学びの場」への転身

大学を卒業後、教育に関わる会社で数年間仕事をしました。そのなかで次第に、私が深めたいこととの「大きなズレ」を感じるようになります。そして、先に述べたような体験につながるギャップを私なりに仕事を通して解決していきたい、と考えるようになりました。また、従業員として働くうちに、会社の経営者としての「思想」について考えさせられることも多々ありました。

私が小さい頃は、父も母も創業者として事業を創り上げていくことに懸命な時期でした。両親は、家庭でも仕事の話をふつうに交わしていたので、「教育」や「経営」など 常に議論している両親の仕事が隣合わせでした。子どもの頃、お泊まりにきた友人が朝食に同席して「みいちゃんのおウチは、朝からむずかしい話をするんだね!」と、驚いていたこともあります(笑)。

経営に一途だった両親でしたが、大切にしていたことは週末や夏休みを利用して子どもと過ごす、軽井沢の別荘での時間です。呆れるほど、子どものスケジュールを無視し、本当によく連れていかれました(笑)。両親としては、日常の仕事漬けから逃れる手段でもあったことでしょう。しかし、その自然に包まれた環境の中で、ゆっくりとした豊かな、穏やかな時間を過ごした体験は、今につながるとても得難いものです。

一方、父母が共同して経営する塾が軌道に乗る中で、母はリゾート事業を始めました。「二期倶楽部」を立ち上げています。当時の母にしてみれば、規模だけがどんどん膨らんでいく塾の経営に、私も感じたような「学びの場」の本来を取り戻したかったような想いもあったのだと思います。

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「人間にとって上質な豊かな時間をもつ別荘以上にくつろげる宿」という思いでスタートしたのが「二期倶楽部」の始まりです。すこし立ち止まって、自然のなかで心身を癒し、自分自身を取り戻せるような場所。創業時から、二期倶楽部は、文化・芸術を求心力にしながら、組織をマネジメントする独自の道を歩んでいくことになったと考えています。

私にとって、子どもの頃の軽井沢の自然の中での経験、また母の仕事を通して培われた「二期倶楽部」での経験は、大きな宝物です。

「二期倶楽部」は、「自然」に包まれただけの、別荘地に至る途中の、なにもない場所にぽつんとたっています。ここで人が共生し、共働していく、実践を通して学ぶ、この浄化の場所をつくるのが、二期リゾートの役割だと、改めて感じています。

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二期倶楽部という「場所」

「二期倶楽部」という名前は、「一期一会」という言葉から生まれました。一度だけではなく、二会、三会へと、何度も訪れていただける、ゲストの第二の故郷のような場になりたい。そんな想いから名付けられています。

6室の「別荘」から始まった二期倶楽部は、現在は、41室。1997年に現本館を増築し、2003年には敷地内に、現代の湯治場をコンセプトにした「NIKI CLUB & SPA(東館)」がオープンしました。2006年には二期倶楽部に隣接して、陶芸、ガラスの専用 制作工房を持つB&B 「アート・ビオトープ」(2006年)、野外ステージ・七石舞台 「かがみ」、総合文化施設である「観季館」を増築しました。私たちの文化事業は、これらの施設を中心に、推進しています。

こうして少しずつ歩みながら、小さいながらも豊かな自然環境の中、芸術文化を楽しみながら滞在していただける「美しい村」づくりへと深化しています。二期倶楽部は、 北山ひとみという、ひとりの女性の人生と、揺るぎない強い想いとが周りと共鳴しながら、この場所に形作られてきました。このスタートとプロセスそのものが、二期倶楽部にとって大きな財産です。これからも唯一無二の価値として、さらに大切に磨いていきたいと考えています。

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ホテルの仕事の範囲は幅広く、とても奥深いものです。文化のショーケースとも言われます。現在ではホスピタリティ産業のレベルは国内外様々。しかし、ホスピタリティ のもつ本質はどこにあるのかと考えると、それは、ただのラグジュアリを求めるのとは、異なると思っています。私も仕事をはじめてから、様々なマネジメントプログラムを受けてきましたが、スクール等のプログラムではとても追いつくものではありません。一朝一夕に習得できるものでもなく、日々にこそ学ぶことは尽きないです。

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仕事に携わる一人ひとりがプロフェッショナルとして、技術と同時に人間として「個」 を磨き、人と共働できるハーモニーを作り上げていくことが大切。そのためには、私自身も「日々、私らしく」切瑳琢磨しなければいけないと思っています。

自然の中での学びの場「山のシューレ」

二期リゾートの文化事業のなかで、私が大切に、育ててきたプロジェクトの一つに「山のシューレ」があります。学生時代に抱いた「いつかは自分が理想とする学校をつくってみたい」という思いは、2008年に、二期倶楽部がある横沢地区で、毎年夏に開催しているこのサマー・オープン・カレッジ「山のシューレ」に重なっています。シューレとはドイツ語で「学校」を意味します。テンポラリーな3日間だけの、山の中で実践される大人の学校です。

スイスのアスコーナに、モンテ・ヴェリタという場所があります。多くの芸術家が集まる場所として知られています。数年前に初めて訪れました。想像していた通りの小さな町です。こんなところに、20世紀初頭にはヘッセ、シュタイナー、ユングらといった思想家や神智学者などが集まり、理想の芸術文化を目指す、時代の思想をつくっていたそうです。多様な文化活動の中で、未来のクリエイター達は、人格を磨いていた。そんな場所を「山のシューレ」のモデルとしてイメージしています。

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横沢の森の中、たくさんの講師やゲスト(参加者)が集い、これまで人類が作り上げてきた多様な智、芸術、技術、文化について学びます。哲学、経済学、生物学、文学、デザイン、建築学、音楽、日本学など、領域を超えて人々が交差し、語り合い、思想を深め合うそんな「学校」です。

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二期倶楽部の自然のなかでは、都心では得られない感覚を得ることができます。「山のシューレ」では、自然がさまざまなことに呼応する感じがあります。不思議なことがよく起こるんです。

たとえば、能を舞っていたら、それまで曇っていて見えなかった月が現れる。また、ある能の謡をすると必ず雨が降る。ゲストの空気が和らぐと、自然と演奏に虫の音が重なるなど。そんなときは、目に見えない大きな自然の力を感じます。自然と人間が静かにシンクロした結果生まれる不思議な体験。「山のシューレ」が、人の感覚をひらいてくれる、自然の中で開催されるからこそ可能な“スーパースクール”になる、と思っています。

「対話」を楽しみながら生きたい

私がどのように育ったか、それが今にどんな影響を与えているか。そうですね、幼い頃から、男の子と駆け回ったり、かなり活動的。中高生のときはお菓子を作ったり、お料理をしたり、勉強と共に、女子学生時代を謳歌していました(笑)。でも、大学時代 は家庭内では両親の離婚と、いろいろなことが重なり、けっこう悩みました。今は悩むことはなくなり、何でも楽しく思えるようになってます。やっぱり、「苦」は自分の軸を強くしてくれるのだな、と思います。だから今でもグラっとしそうになったら「自分らしく」を大切にするようにしています。

理系でしたし、読書家ではないけれど、本は大好きです。おそらく、思想系や社会、文化人類学系・・・の本を好んで読んでいます。本から、自分の考えを確認することもできる。勇気ももらえます。人との会話だけでは見落としがちなことも、読書では静かに振り返ることができます。知識を吸収するためというより、本と対話しながら、自身の脳の中の繋がりを確認できることが楽しいです。いつも3冊くらいを並行して読むことが多いですね。

時代のスピード感からすると、私の思考回路はかなりノンビリしているでしょうか (笑)。でも、限られた人生の道程ですが、そんなに大急ぎで大きなことをする必要はないといつも思っています。私はポイントだけをつまむことが、あまり得意ではなく、 また、好きではありません。ものごとの「間」に、大切なことがたくさん含まれている。だから仕事も唯一の自分らしく、唯一の相手と、対話しながらプロセスを踏んで、ていねいに進めていきたいと思っています。なかなか難しいし、相手にうまく伝わらないので、コミュニケーションについては、これからの私の課題ですね。

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私がとても尊敬している方に、能楽師の安田登先生がいらっしゃいます。安田先生は独自の歴史観をもっていらして、一身で、「今」を生きていらっしゃる方。「山のシューレ」に毎年ご出席をいただき、普段からよくお話をうかがいます。「人間の脳って、いろいろなものに反応しながらいろんなことを考えるようにできている。でも今は、『こうなったら、こうなる』というリニアな、一種の公式のようなものを前提に、すべてが成り立っている。それは、本来の人間の思考や姿とはかけ離れている」。先生のお話にいつも新鮮な驚きを得て、私の感じ方や考え方にすごく響いています。 「人は、毎日生まれ変わることができる。それこそが真の旅人である。」そのような気持ちを大切にしたいです。

これからどんな風に仕事をして、生きていこうと考えているか。原点に戻って、人間の原初的感覚を大切にしていきたいです。二期リゾートは、これまで「人間としての上質な時間の過ごし方」をゲストと共に考え深めてきました。事業として、身と心の健康と魂について探究してきましたから、目指すところは私自身としても、しっかり重なります。

一直線に大きな成果を目指すようというより、小さな「生命の芽」を尊び、先人が育んできた奥深い文化と技術を学び、ていねいに生かしていこうという試みを続けることとも、言えるでしょうか。「リゾート」という言葉の語源は、古フランス語の「resortir(しばしば行くの意)」と言われています。真のリゾートの意味に真摯に向き合い、そこに共感してくださるゲストの皆さまとの文化が生まれる。そして、何度も訪れることができる「場所」になっていくのではないか、と思っています。

新たなプロジェクトへ

私たちが2010年より取り組んできた二期倶楽部の芸術文化プロジェクトの次なるテーマは、「庭」です。建築家の石上純也さんに設計をお願いして、進めており、今夏完成予定です。小さな森の敷地を自由に遊べるフィールドに捉え、樹々を茂らせ、水をデザインする。170個の池をつくり、空間を繰り広げて、その先にファームを創ろうという計画です。二期倶楽部があるこの横沢の地は、中山間地帯にあり、昔より棚田をつくり、水利をコントロールしてきた土地の歴史があります。石上さんの構想は、この荒々しい自然に現代の治水技術を駆使し、人と自然が共生できる“芸術”空間を作ろうというものです。ただいま、その「庭」作りの挑戦に、チームで綿密なプランで取り掛かってくださっています。

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そして今年、この「庭」の延長に、その景観を活かす新しいプロジェクトを立ち上げます。2003年より手がけてきたNIKI CLUB & SPA(東館)のコンセプトである「現代の湯治場」をより進化させた、宿泊施設です。ゲストの方々がよりプライべートな空間で精神を安らげ、自身の時間を持ち、自らの心と身体を整えることができるような環境を備えた施設。“自然との共生”という二期倶楽部が大切にしてきたこれまでのコンセプトの延長にあります。自然の中で生命力を復活させて、人生の充実を味わうことのできる時間と空間。そんな魅力を持った、ウェルネスリゾートホテルを予定しています。

培ったノウハウや、資源を使い、そうしたかけがえのないゲストの時間について考えたプログラムにしたいと思っています。それは、いままでの「公園」とも異なる、日本の中の私たちが共働、共生できる「ガーデン=庭」です。

様々なプロジェクトを通して、二期倶楽部を「人が豊かに育つ場所」にまで進化させていければ、と願っています。国を超えて、ホスピタリティの仕事に関心のある人たちが、集い、学び、進化しあえる場所。そして、その場を、諸事情で教育の機会をもつことができないでいる若者たち等にまでひらいていきたい。そんなプロジェクトを育んでいくことも、私がかなえたい夢のひとつです。

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株式会社 二期リゾート www.nikiresort.jp

二期倶楽部 www.nikiclub.jp

アート・ビオトープ www.artbiotop.jp

山のシューレ www.schuleimberg.com

株式会社 ランゲージティ―チングレボリューションズ www.ltrs.co.jp

株式会社 エデュリンク

プロフィール

東京学芸大学教育学部卒・株式会社二期リゾート入社後、取締役ブランドコミュニケーション部部長を経て、現在株式会社二期リゾート取締役副社長。栃木県那須横沢地区にあるリゾートホテル「二期倶楽部」「アート・ビオトープ」を中心に文化事業、 人材教育・コンテンツ開発、その他新規事業を担う。同時に、英語教員開発事業を経て、現在株式会社ランゲージティーチングレボリューションズにて、英語教育事業の企画・ 運営に携わる。
株式会社二期リゾート取締役副社長。株式会社ランゲージティーチングレボリューションズ取締役。株式会社エデュリンク取締役。特定非営利活動法人アート・ビオトープ理事。

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