Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.046 酒井誠一さん

2016/09/17 (土)
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酒井誠一さん

株式会社ティムコ
代表取締役社長 

フィッシングやアウトドア関連用品の企画開発、輸出入、製造販売などを手掛ける株式会社ティムコの社長である酒井さん。欧米製品の輸入業からスタートし、その後、独創的な自社製品を次々に開発し、さらに欧米輸出するビジネスを展開する同社の経営を創業者から引き継ぎ、順調に業績を伸ばされています。今回は、ご自身のキャリアや二代目社長の成功の秘訣、事業への想いなどについてお話しいただきました。

日本におけるフライ、ルアーのパイオニア

私は大学卒業後、富士ゼロックスに入社しました。同社は研修期間も長く、その中で仕事の型を叩き込まれました。「ザ・ドキュメント・カンパニー」という標語があるように、特に資料のつくり方を学びました。また、有言実行型の先輩方が多く、大企業病にもなっておらず、くたびれた社員が少ない。当時社長だった小林陽太郎さんの上品さが社内にも漂っているようでした。このまま、ここに骨を埋める気でいましたが、入社2年目のとき、父から「会社を上場させるから、その準備をして欲しい」と言われ、父の会社に転職することにしました。

父は、1969年に株式会社ティムコを創業し、欧米のスポーツ用品の輸入販売を手掛けました。当時から欧米では、豊かな余暇時間を過ごす様式があり、日本も将来こうなることを予感。その中でもフライやルアーといった擬似餌で魚を釣るスタイルが日本でも流行ると確信。いち早く関連用品の輸入販売を開始しました。目論見通り事業を拡大させていきましたが、輸入元の米国企業の中には身売りを繰り返すケースもあり、事業の安定性に危機感を感じていました。そこで、自分たちの意志でコントロールできるオリジナル品が必要と考え、開発に着手することにしました。最初に手掛けたのがフィッシングベストです。

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当時は欧米のベストしかなく、縫製やサイズは日本市場に受け入れ難いものでした。「我々が日本人に合った本物のクロージング(衣料)をつくろう」と、1982年に「Foxfire(フォックスファイヤー)」というブランドを立上げました。その後、総合アウトドアブランドとしてアイテム拡大し、新たな事業の柱となります。そして、フィッシングの分野でも、釣ばりやツール等の自社開発を進めた結果、輸出もできるようになり、欧米の釣人からも支持を得られるようになっていきました。また、フライフィッシングのスクールも開校して、啓蒙・普及する活動にも力を入れていきました。

すると、「日本におけるフライ、ルアーのパイオニア企業」とか、「フィッシングとアウトドアの両方を扱う世界でも稀な企業」として認知いただけるようになり、証券筋から「上場しませんか?」とのお声を掛けていただいたのです。ただ、担当者から「上場までの道のりは長く、過酷なため、絶対逃げない人が社内に必要」と言われたそうです。そこで父は、「親族は逃げられない」と考え、私に白羽の矢が立ったわけです。

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入社後すぐに上場準備に携わりました。公開準備担当は、私のほか新人2名という初心者チーム。しかも株式のことなんて、さっぱりわかりません。まずは証券会社の担当に「株とは? 50円額面とは?」など根掘り葉掘り聞いて理解していきました。そんな始まりでしたが、有能なスタッフと力を合わせ、無事、上場(当時は店頭登録、現東証JASDAQ)にたどりつきました。

その後は、営業等も経験しながら、社長室長を約15年続け、創業社長の下であらゆることに携わりました。資本政策から広報、中期経営計画の策定、内部統制、現場の改善点をみつけて仕組化するなどなど。中でも、重要だったのがビジョンづくり。会社代表の代弁者として語ることができ、また伝わるように、きちんとドキュメントに落とし込みました。これは富士ゼロックス時代の経験が活きていると思います。そして、2011年、42歳のとき社長に就任しました。

foxfire

二代目に必要なのは「腹を立てない力」「調整力」

私は三人目の社長ですが、創業者の父の後継者としては実質的には二代目となります。二代目は絶えず偉大な創業者と比較されます。確固たるビジネスモデルを一からつくりあげ、会社を成長させてきた創業社長は特別な存在です。一方、二代目社長、それも創業者の子息ともなると、皆本質的は社長とは思えないのが自然です。「ボンボンが来て…」とか、「親の七光りで・・・」という感覚を持ちます。皆さん大人ですから、普通はそんな態度は示しませんが、二代目が嫌がらせを受けたりするケースも結構多いのです。

それが当たり前のことであると気づくきっかけとなったのは、二代目が集まる経営者の勉強会でした。そこで、悲惨な事例をいくつも聞かされました。苦労している会社の問題は、だいたい二つに分けられます。一つは、創業者(父親)との確執。創業者にとって、会社は自分のアイデンティティであり、子供のような存在でもあります。なので、いつまでも会社を子供に引き継がない。任せられない。捨てられないのです。子供が社長になって「あれをやりたい」と言っても、創業者から止められることがほとんど。そこで対立が生まれます。

もう一つは、番頭さんとの確執。番頭さんとは創業者のNo.2や右腕と呼ばれる人。この人の方が社歴が長いので、会社のこともビジネスのことも二代目より、よく知っています。だから、二代目のことを社長と思わないし、そういう態度でも接しない。むしろ、いじめるようなことをするケースもあります。

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当社にはこうした問題はなく、自分が恵まれた環境にあとを知ることができました。また、二代目を社長と思わない人がいるのが普通であると知ることができたのです。なので、周囲の言動にいちいち腹を立てたりして、そこにエネルギーが向くのはもったいない。会社をきちんと回していくことが重要なことなので、戦う必要もないことには無駄なエネルギーを使わないことです。もっというと、不要なことに腹を立てるセンサーを捨てることですね。「腹を立てない力」ともいえます。

あと、二代目には「調整力」も必要です。「絵画」などを例にすると分かりやすいのですが、作品に手を加えるのも壊すのも作者の自由です。しかし、別の人が手を加えるとなると作者に気を使うし、周囲の説得も必要。評価されている作品ほど大変です。これは会社でも同じです。創業者がつくったものを変えるには、気苦労と抵抗勢力が付きまといます。でも、変えるべきものを変えないとまずい。時代の変化は会社の都合を待ってくれません。

創業者なら「俺が社長なんだから、こうやれ!」といえば、スムーズに人を動かせます。しかし、二代目に同じように言われても違和感持つ人多いでしょう。そんな時は新しい仕組みやルールをつくるのも効果的。それには目的や狙いの説明が必要で、皆耳を傾けるからです。人は新しい仕組やルールに従います。結果、行動が変わるのです。ここには無駄な戦いなど不要です。また、私は48歳ですが、創業者の父にとっては一生子供です。色々と口を出すのは自然なことで、先人の知恵として聴くようにしています。相手に聴いてもらうには、まず自分が聴くこと。うまくやる秘訣は無駄なことに「戦わないこと」かもしれません。

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Think in the field(想いがいつもフィールドにある)

リーダーとして大事にしていることは、ビジョンを強く発信していくこと。進む方向が曖昧だと社内がバラバラになります。強く発信すればするほど、相手は耳を傾けてくれるものです。あと、社内でよく言っていることは、「自分の話が相手に伝わるのは2割程度。伝わらない責任の7割は話し手側にある」ということ。何か習い事を教えるにも、初心者と上級者とでは、伝え方は違います。伝わらない場合は、話し手が工夫する努力を求めています。

当社では、”Think in the field”という言葉をステートメントにしています。これは、私たちの想いがいつも自然のフィールドにあることを意味しています。私たちは、今あるものをさらに改良するための努力を惜しみません。世の中にないものは自分たちで創り出していきます。そして、自分たちが愉しく、世に役立つと感じるものを提供していきます。だから、私たちは、働くことと同じく、遊ぶことも大切にしています。

そんなこともあり、まだワークライフバランスという言葉も考えもない1980年代から、いろいろな取組みをしてきました。例えば、時間外勤務は原則禁止です。当社は、レジャーの道具を扱う会社ですから、できる限り自分の趣味に費やす時間を持つことが大事だからです。従って、休みがとりにくい文化はつくりません。当社の夏季休暇は11連休です。9連休だと、混んでいる土日が移動日になり得るので、少しずらしています。また、営業的な接待も原則しません。それで仕事をとっても本質ではないからです。最近は、このような取組みをする会社が増えてきたので、逆に時代に先駆けた新たな施策を考えていきたいと思います。

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SNSが世に広まるにつれ、私たちのビジネスは人の人生に大きく関わっていることを実感させられます。例えば、釣りが好きな人のプロフィール写真は、ほとんどが釣りをしているときの姿です。それがその人のライフワークなのです。まさに自然のフィールドで出会った出来事が、その人の一生をも左右するかもしれません。私たちの商品がそこに関われるなら、その人の人生にコミットすることになります。私たちはその責任を担っていると考えています。

また、私たちが提案するアクティビティに接すると、自然の成り立ちに詳しくなります。例えば、フライフィッシングのフィールドの渓流。「よい魚」が育つには「よい川」が必要で、「よい川」が育つには「より森」が必要です。そしてその水は海へ流れ海洋生物を育てます。魚は朝夕によく釣れますが、それは朝夕が魚の食事の時間だからです。朝夕は虫も多く水生昆虫の羽化も集中します。虫が無防備になる瞬間を魚は狙っています。そこに、虫に似せたフライ(毛ばり)を投げると魚が幻惑され釣れる。よい釣り人になることは、自然の生態を知ることでもあります。

私は自然の中にいることが好きです。人間も自然の一部であり、本当の贅沢な時間は豊かな自然の中で得られるものだからです。自然との出会いは一期一会。二度と同じシーンには巡り合えません。そんな一生の思い出となる瞬間に、私たちの商品が関わる存在でありたいと願っています。

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プロフィール

株式会社ティムコ代表取締役社長。富士ゼロックス株式会社に新卒にて入社し営業職担当。1992年、株式公開準備要員として株式会社ティムコに入社。1996年に日本証券業協会店頭登録 (現東京証券取引所JASDAQスタンダード上場)の後、社長室長として経営企画、IR、広報等に携わる。その後、取締役社長室長(2003年)、常務取締役(2007年)を経て、2011年に代表取締役に就任し、現在に至る。同社の創業者 酒井貞彦の子息であり、創業メンバーから世代交代した二代目にあたる。好きな言葉は「人間万事塞翁が馬」、“Make a difference”。

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